執筆中 その2 [ひとり言]


 「早く逃げろ!ここは俺が何とかする!早く」
 『でも・・・』
 「急げ!」
 「仕方ない、ここは健二に任せよう」
 『健二!トンネルの6番非常扉だから』
 「わかった!早く」

 耳川を跨ぐように国道10号線が走っている。その昔、国道を開通させる為に設けられた美々津と幸脇の町を結ぶ古い橋、技術の発達でより利便性のある長い橋が架けられるようになり、迂回する形で走っていた国道を2km弱短縮する形で設けられた橋。その古い橋の上で、全力疾走しながら5人の若い男女が叫んでいた。その後方から100体以上はいようかという群れを成した悪鬼が無残な肉塊を曝け出しながら差し迫っている。
 健二は、栄養ドリンクなどの小さな瓶で作った手製の火炎瓶を悪鬼の群めがけて投げた。1本、2本、3本と次々にバッグから取り出して、投げた火炎瓶は小さい割に燃え広がりは激しく、橋の上は忽ち火の海と化した。手持ちの火炎瓶の半分を次々と群の中に投げ入れながら、健二は全速力でトンネルの中へと急いだ。理由など判らないが、悪鬼達は火を異常に嫌い火が消えるまでは決して追っては来ない。悪鬼達の弱点が火であるかも定かではないが、それ以外未だに鬼達の足止めする手段が見出せない今、逃げる他に生き残る術がなかった。
 
 健二は必死にトンネルの中に逃げ込んだ。元は高速道路のトンネルだったが、今では通行する車もなく路面上のアスファルトは裂け、その隙間からは雑草が思い存分に丈を伸ばしている。その草を足で掻き分けながら手前から3番目の非常扉を目指した。ちょうど辿り着こうという時、扉を少し開けて美香が手招きしていた。
「馬鹿!隠れろ!」
『大丈夫。後ろはまだ火の海だから』
「煩い!下がれ!」
 健二は非常扉めがけて走りながらバッグの中の液体を取り出し容器のキャップを開けた。扉を開け、閉める間際に液体をドアノブに振り掛け、内側から鍵をした。その数秒後、悪鬼達が次々とトンネルの入り口へと辿り着いた。悪鬼達が発する独特の臭いがトンネルの中へと吸い込まれていく。何かに注意するように一体の悪鬼がトンネルの影に足を踏み入れた。それに続くように次々と悪鬼が流れ込み始めた。灯りのないトンネルの中を違和感なく進む。一体の悪鬼が扉の前で立ち止まった。削げ落ちたように形のなくなった鼻をドアノブに近付けて嗅いた瞬間、悪鬼は思い切りドアノブを捻り引いた。簡単に扉は開いた。扉の中へと次々と鬼が吸い込まれるように流れ混んだ。次の瞬間、悲鳴が轟いた。扉の奥に隠れていた誰かが襲われたのだろう。その悲鳴も悪鬼達の立てる物々しい雑音に一瞬で掻き消された。その時、身の丈2mはありそうな悪鬼が、ふと振り返り真後ろに位置する6番非常扉に近付いた。辺りを警戒しながら鼻で周囲を嗅いだが、結局ドアノブを握る事もないまま別の扉へと向かって去っていった。

 健二達が逃げ込んだ非常扉6番通路は、他27ある非常扉のどれとも繋がっていない隔離通路で入り口と出口の2箇所しかない空間で、直径10センチの通気口が幾箇所にも設置してあるらしく、悪鬼達が侵入してくる恐れもないうえ、酸欠になる事もない格好の避難場所だった。
『そろそろ去ったか』
「そうだな・・・。静かになった」
『健二、あんたがいつもドアノブに塗っているの何なの』
「メタノールだよ」
『メタノール?』
 瑞樹が健二に訊ねた。
「ホルマリンの原料にもなるやつ。アルコールランプなどの燃料にも使われるんだけど、瞬時に臭いも消すんだ。木酢液を蒸留すれば簡単に作れる。炭だけは山ほどあるし、火を嫌うあいつらはこれを作っている間はほとんど近付いて来れないだろ。だから、一石二鳥ってわけだ」
『よくそんな事思いついたな』
「一応は、この5人の中で俺が一番頭イイし絶対生き残りたいからな」
『頭がイイのは余計』と、やっと心臓の鼓動が治まった美香が言い返した。
「まぁいいじゃん。そのお陰で私達も生き残れてるわけだしさ」咲枝が美香を宥めるように言った。
 ここにいる5人は2ヶ月前までは普通に日向総合工科高校に通っていたクラスメイトだった。元は20人近くいたが、2ヶ月の間に襲われたり仲違いして5人にまで減ってしまった。




という文章。

これ、僕が今執筆している小説の一章節なんです。
原稿用紙で行くと210ページ目くらいに登場するシーンなのです。

このあと物語は、中盤~終盤へと入っていきます。
まぁ、だから何なんだって感じですけど、一応ご紹介しようかと思い(^^)
どうなることやら。




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